選ばれし者達(48)
香織、愛子がチャット画面でチャットの成り行きを見ている頃、当事者の田中先生とタマはこんな大事になっているとは、夢にも思っていなかった。
駅員室から駅前の交番に移動した二人は、別々で状況を聞かれていた。
タマの方は、胸にパットを入れていたので、始めては触られた感覚は殆ど無かったが、触られた感じは微かに有った。それより、『なんで私?』と言う疑問と戸惑いの方が遥かに大きかった。
またその戸惑う様子が、横にいる婦人警官には、いまだに痴漢に遭ったショックが続いていると見えてしまうみたいで、やたらと優しい言葉をかけてくれたり、聞きもしない自分の痴漢体験なんか話したりして、その気遣いがタマにとっては余計にどうしたらいいかさらに動揺を拡大させていた。
田中先生の方はあっさり痴漢を認め、調書を取られていたが、過去に痴漢行為が無かった為に、厳重注意でその場は収まった。
その後、田中先生は事情聴取が終わると、タマより先に解放された。
外に出てから電源を切っていた携帯電話の電源を入れた時、絶え間無く続く無数のメールの着信通知に、田中先生は、何が起きているのか全く理解出来なかった。
偶然目に留まった届いたメールの1通を見て血の気が引くのを感じた。
【痴漢先生!】
『え…もう?まさか…』
田中先生はその瞬間軽い目眩を感じた。
【最低!】
【学校やめちゃえ!】
【強姦魔!】
【………】
無数の痴漢の事実を軽蔑するメールが届き続けていた。
田中先生は、完全にパニックになり立ち尽くしていた。
一方、交番で落ち着きを取り戻す為に出されたジュースを貰い、ゆっくり飲んでから出てきたタマは、そんな田中先生の姿を横目に見つつ、その場を後にした。
人の来ない場所を見つけるとダーリンに状況を報告し、その時にダーリンから、痴漢の事実がもう広まっている事を聞かされた。
タマ自身、何より痴漢に遭った自分の名前が出ているのではないかと不安になっていたが、名前が出ていない事を知ると安心した。
一方、茫然と立ち尽くしていた田中先生は、携帯電話の通話の着信音でやっと我に返った。
通話ボタンを押すと、教頭先生からだった。
「今から、申し訳無いが、学校に来で下さい。これからの事を話し合うつもりです。」
これだけ伝えられると電話は切れた。
田中先生はこれからの事を想いつつ、重い足取りで学校に向かう事にした。
学校に残っていた教頭の元には、PTA役員から学校に田中先生が、痴漢をしたらしいと子供達が話をしていると言う話しが学校に入ってから、すでに1時間程経っていた。
学校内にはすでに教師はほとんどいない状態だったが、あらかじめ用意してあった、教師が事件を起こした時に対してのマニュアルに従い、教頭は機械的に教師を学校に集め対策会議を開く用意を始めていた。
学校から電話が来た時、みゅーみゅーは自宅で香織の話しが信じられず、昔のアルバムを出し当時の親友の事を思い出していた。
「臨時職員会議を開くから学校に来て欲しい。」
電話の教頭の声は普段の様子では無く、すかさず何が有ったのか聞き返してみたが、全く教えて貰えず、教頭はただ学校に大至急来て欲しいと繰り返すだけだった。
みゅーみゅーは電話を貰った時点で、これから職員会議で話される事実を知っていたが、誰にも言えずに重い足取りで学校に向かう事にした。
事の成り行きを、パソコンのチャット画面を見ながら見守っていた香織と愛子は、絶え間無く流れる文字を追いながら、学校に連絡が入った事など、細かい展開を画面を通して把握していた。
「ねぇ、香織。とうとう学校に連絡が行ったみたいだね。」
愛子は、チャット画面に表示される事実について、逐一香織と会話を続けていた。
「うん。今頃は、先生達が集められている頃かもしれないね。」
香織は時計を見ながら、ダーリンの報告の時間から推測して話していた。
「うん。みゅーみゅー驚いているだろうね。」
「うん。そうだね。」
「あ、香織悪い。そろそろ私、マジで勉強しないと…。」
「あ、そうだったね。勉強してる途中だったんだよね。後は明日にならないと多分、動きは無いと思うから、明日にするね。また明日迎えに行くよ。」
「そう。わかった。今日と大体同じ時間?」
「そうだね。少し早いけど、もし学校が休みの連絡が有ったら、また連絡するね。」
「うん。わかった。」
愛子はそういうと電話を切り、勉強を続ける事にした。
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